「光が丘に越して来る前の事なんだけど、休みの日に新聞屋さんが、芳子の部屋に来たらしいの」

「それは集金で?」

「ううん、勧誘だって言ってた。その時は、どの新聞も取ってなかったみたいで」

「それで?」

「勧誘に来た新聞屋さんていうのが、そこの前に住んでいた所で芳子んちに新聞を配ってた人だったらしいの。で、偶然ですねえって話しで少しだけ盛り上がってるうちに、その人が、『僕ら配達員にも勧誘のノルマがあるんですよ』みたいな事言って来たんだって。
 芳子は、前の時にその新聞屋さんに随分良くして貰ってた記憶があったから、じゃあ取りましょうって事になったのね。それで、その人が毎月集金とかの度にいろいろサービスしてくれたりとか良くしてくれてたらしいんだけど、段々それが普通じゃなくなって来て、ちょっとありがた迷惑に感じ出したらしいの」

「具体的にどんなサービスって言ってたの?」

「初めのうちは、遊園地の招待券とか映画の券だったりしたんだけど、そのうち頼みもしないのに、なかなか手に入らないコンサートチケットとか、アクセサリーになって。高級ランジェリーを持って来られた時には、もう怖くなって、何度も販売店に言って断ったらしいの。そしたら、その人が『お金は僕が払うから、新聞だけは配達させて下さい』て、泣きながら土下座したんだって。
 これはヤバイって感じて、それで光が丘に越して来たのに……」

「この男が、その新聞配達員に似ていると言ったけど、君はその配達員を実際に見た事があるんだね?」

「ええ、二回だったかな、遊びに行った時に、丁度なんか持って来た時だった。私が、いいなあ、うちの方の新聞屋なんか洗剤もくれないわよって言ったら、私の分もですって、ギフトセットみたいなの置いてったからはっきり覚えてる」

「もう一度見て下さい。その男に似ていますか?」

「この写真だとサングラス掛けてて目許がはっきりしないけど、そっくりよ」

「ありがとう」

 この証言を聞き出したのが本間刑事だったのだ。