「その自動販売機と不審者の間隔はどれ位でしたか?」

「殆ど、道の端っこを歩いてましたから、自動販売機ともそれ程間隔は無かったと思います……」

「ありがとうございます。私からの質問は、これで終わりです」

 目的以上の尋問が出来た事に、森山は満足していた。

 特に、最後に聞き出した自動販売機との対比は、新たな証言として重要なポイントになって行くに違い無い。

 隣の野間口妙子も、森山に何度か頷いている。

 一呼吸置いて田所検事が立ち上がった。

「貴女の警察での証言と、調書の部分で食い違いがあるようなご指摘を弁護人はされてましたが、警察から検察に上げられる調書は、常に具体性を求められております。あやふやな文章、表現では、物事を正しく第三者に伝える事は出来ません。それらを考えれば、証人が答えた事に対し、具体的な数字を記載するといった事は至極当然の事であります。
 ところで、証人に伺いたいのですが、警察署で見た時と、この法廷で被告人を見比べて、どう思われますか?」

「どう、と言われますと?」

「先ず、パッと見た印象で行きましょうか。怖い、或は恐ろしいと感じられたのはどちらでしょう」

「それは、警察の時の方が……」

「そうでしょう。どんな事件であっても、悪事を働いて捕まったばかりの被疑者というのは、やはり凶悪に見えるものです。それが、ある程度時間が経ち、犯罪者の方も落ち着いて来ますと、そういう雰囲気は消えて行くものです。
 私は、過去に多くの重犯罪人と法廷で向き合いましたが、中には仏様のような優しい面立ちの者がいました。ですが、裁判資料の逮捕時の写真を見ると、まるで別人のように見えるんです」

 日高典子が田所検事の話しにうん、うんと二度頷いた。

 野間口妙子はさすがだなと思った。

 森山は、腕を組んで目を閉じている。

 田所検事の言葉が続く。