「先ず、証人にお伺いしたいのは、貴女が不審な男性を目撃した詳しい経緯についてです……」

 森山の証人尋問が始まった。

 型通りの進み方で、以前に彼女の自宅で聞いた事と同じ質問が繰り返された。

 横で聞いていた野間口妙子は、思いの外森山の態度が落ち着いていたので安心した。

 警察で証言した言葉と調書に書かれた言葉とで、ニュアンスが違う点をやはり森山は衝いて来た。

「その時、証人は『この人に間違いありません』と、こう言いましたか?」

「いいえ、多分そこまで強い言い方はしなかったと思います……」

「では、どんな言い方を?」

「はい。似てます、みたいな言い方だったと……」

「その時、似てると思った人は、今日この場に居ますか?」

「あ、はい……」

「今、この場に居るその人は、事件当日の夜に貴女が目撃した不審な男性ですか?」

 検察側からは、何も言って来ない。

 森山は、此処で意義ありの声が掛かると予想していたのだが、一声も掛からない。

 日高典子は、どう答えようかと言葉を詰まらせていた。

「感じたまま、思ったままを答えて下さい」

 森山は、日高を後押しするかのように話した。

「似てますが、そうじゃない、違う人かも知れません……」

「『この人に間違いありません』と書かれた調書を貴女は御覧になった事がありましたか?」

「……いいえ」

「最後の質問です。その日の夜、不審な男性を目撃した訳ですが、身体つきとかはどうでしたか?」

「それ程大きくもなく、普通……だったように思います」

「警察での調書にはこう書かれてます。『160㎝~170㎝位』10㎝の開きはありますが、このように具体的な数字をおっしゃってます。間違いないですか?」

「あの、私の方からは、何㎝位とかは言ってなかったと思います……」

 森山は、自分が思い描いていた方向に、日高典子の尋問が進み始めたと思った。

 チャンス……

 森山の口調が、一段と熱を帯びて来た。