木山事件の控訴審は、弁護団側からの申し入れもあり、集中審議で行われた。

 控訴審第一回目の公判から、僅か五日後に次の公判が開かれた。

 この日は、弁護団側の証人尋問として、日高典子が出廷した。

 五日前以上にこの日はマスコミの取材が多い。

 日高典子の顔は、緊張で青白くなっている。

 裁判官に促され、正面の証言台に立った。

「では、これから貴女にいろいろ質問がされます。この法廷での発言は、全て記録され、証拠として扱われますので、虚偽の発言を致しますと貴女自身が処罰を受ける場合もあります。では、名前と生年月日を」

「は、はい。日高、典子。昭和55年、7月8日生まれ、です……」

「はい、それでは椅子にお掛け下さい」

 証人の緊張を和らげようとしてか、裁判官は努めて笑顔を見せながら、柔らかい口調で話していた。

「それでは、弁護人質問をどうぞ」

「はい」

 傍聴席から軽く咳をする声がした。

 少し空気がざわっとしたが、森山が立ち上がると重苦しい静寂が法廷を覆った。