木山が起訴され、捜査本部は解散された。それ迄の捜査資料はお蔵入りとなった。

 阿久根は、捜査一課長に、自分達がそれ迄調べ上げた資料を杉並に送ってくれるよう要請したが、肝心の杉並署がそれを受け取らなかった。

 容疑者の身柄を引き渡して貰えない。こちらから捜査員を派遣し、取調べに手を貸す事も拒まれ、捜査資料でさえ必要無いと言われた。

 阿久根以上に他の捜査員達は激怒した。

 後二年で定年を迎える阿久根の長い警察官人生の中で、この時程虚しさを感じた事は無かった。

 その姿を目の当たりにしていた本間が、本部解散後も一人で自ら目星を付けた人物を追い続けたのは、阿久根の無念さを晴らす為と、所轄の意地であった。

 阿久根は、前々から本間の行動を薄々察していた。

 これ迄は、ずっと知らないふりをして来た。上に知られないよう、これ迄もさりげなく阿久根がカバーしていた。万が一、上に知られる事となったら、自分が命じましたと言えばいい。

 それ位の腹は括っている。それに、黙認した時点で命じたのと同じだ。

 その思いは本間にも伝わった。

 このところの忙しさで疲れてるにも関わらず、こうしてわざわざ飲みに誘い出したのは、きっと例の件のその後を知る為だったのだろう。

 本間はそう受け取った。

「ガイシャとの接点は確認出来たのか?」

「現在の奴の住まいが中野区の方なんですが、ちょっと面白い偶然を見つけましてね」

「ん?」

「中野の前が豊島。実は、ガイシャの交遊関係を洗ってる時に前住所とか調べてたら……」

「豊島か?」

「だけじゃないんです。その前の吉祥寺も……」

「住んでた所は二カ所とも近いのか?」

「チャリンコで十分圏内。それに、そいつの仕事がその二ヶ所とも新聞配達……。住み込みの店員っす」

「完璧ストーカーだな……。現在の仕事は?」

「してません。一年位前からずっと……」

「そうか……ま、状況が状況だから、余り無茶するなよ。ほれ、グラス空だぞ」

「いいすか?四杯目っすが?」