「木山よ、もう一度聞くが、八月九日は何処でどうしていたんだ?
 お前が、自分は無実だと言うんなら、納得出来るようにアリバイを説明してくれ。俺達だって何の見込みも無くてお前にこんな事を聞いてんじゃねえんだぜ」

 今度は一転して猫撫で声で迫って来た。

 薄気味悪い……

 アリバイ……

 第三者によるアリバイ証言が得られれば、問題は一気に解決する。

 あっ?!

「人と……人と会ってるんです」

「ほう、目撃証言が得られるって訳か……」

 刑事の目は余り乗り気な色では無い。

「夕方……そう、夕方の四時位に新宿で知り合いと偶然すれ違ったんです。言葉も二言、三言交わしてます!」

 私は言葉の最後に思わず力を込めていた。

「知り合い?何の知り合いだ?」

「前々刑のムショ務めで顔を見知っていた人です」

「名前は?」

 名前……

 思い出しようも無かった。

 刑務所が一緒だったというだけで、互いに顔だけを見知っていた相手。工場も舎房もただの一度として一緒になった事の無い相手。

「な、名前迄は……ただ、中に居た人だよねって、そう話しただけだから……」

 刑事達の私を見る目が、ある種蔑みを含んだものになっていた。

「残念だな、仮にその話しが本当だとしても、夕方じゃ時間が合わねえんだ。てめえ、いい加減な作り話しを語ってんじゃねえぞ!」

 強行班の刑事がいきり立つ。

 盜班の担当刑事が、まあまあと宥めながら、自分の煙草を私に差し出して来た。

「一服して、気持ちを落ち着かせてからもう一度よぉく思い出してくれ」

 差し出された煙草を掴む指が小刻みに震えていた。

 その煙草を吸い終わった時、別の若い刑事が取調室の扉をノックして顔を覗かせた。

「長さん、準備が出来ましたが」