翌朝、森山は事務所で浅野と野間口妙子を交え、日高典子の証言について意見を交換しあった。

「警察調書では、面通しではっきりこの人ですって断言した形で書かれてあるんです」

「昨日の話しでは、それが違う感じだな……」

「以前にも一度話しだけ聞いてたんですが、やはりこんな感じでした」

「前に、彼女は他人から強く言われると否定出来ないタイプって言ってたけど、質問の答え方にそれが出てるわね」

「いいものがあるんです。これ、聞いたら尚更そう思いますよ」

 そう言って森山がデスクの上に置いたのは、小型の録音機だった。

「会話を録ったのか?」

「ちゃんと彼女から許可を取ったの?」

「いいえ、これは気付かれないように録りました」

「じゃあ証拠にはしずらいわね」

「これは、あくまでも皆さんに聞いて貰う為に録ったものです。文字だけではイマイチ判りずらいニュアンスもこれではっきり判ります」

 そう言ってスイッチを入れた森山の顔は、かなり得意げだった。

 その表情や態度を見た野間口妙子は、ちょっと危ないかなといった不安感を憶えた。

 浅野も同様な事を感じたらしく、表情が渋い。

 やり方として感心は出来ないが、しかし録音されたものを聞くと、森山の言っていた通り、日高典子の性格的な部分がはっきりと伝わって来た。

「この目撃証言でちょっと変だなって感じた部分は此処です」

 浅野は、森山が言っている引っ掛かる部分を三回ばかり繰り返して読んだ。

「ね、『似てる……』なんです。警察調書では、『この人だ!』て断言してます。
 録音された彼女の話し方をもう一度思い出してみて下さい。彼女は、こういう断言するような強い口調では一切喋ってません。自信無さげに、弱々しく、常にこちらを窺う感じです。第一、日高典子本人は『この人だ!』とは一言も言っていない」

 まだ弱い……

 浅野は自分の経験から、この程度のものでは警察の調書をひっくり返すのは難しいと思った。

 だが、日高典子を証人として証言台に立たせれば……