「他に変わった点は?」

「最初は気付かなかったのですが、着ていた服に血が着いていて……」

「はっきりと確認出来たんですか?」

「すれ違った時にはっきりと……」

「その時、どれ位の距離がありました?」

「道の端と端ですから、三、四メーター位……」

「身体の大きさなんですが、翌日、事件があった所轄の刑事さん達の聞き込み調査で、この人物の事を話してますよね。
 その際、男の身長を160㎝から170㎝位の間とおっしゃってます。三、四メートルの近くで見たにしては、身長が10㎝近くも違ってるのは?」

「それは…夜で怖かったから、そんなにはっきりと見なかったんです……それ位かな、と……」

「判りました。最後にお聞きしたいのですが、杉並警察署で犯人らしき人物の確認をされましたが、一目見て、事件当日に日高さんが目撃した不審人物と同一人物だと思いましたか?」

「一目見てと言うか、あ、似てる、て、そう思いました……」

「ありがとうございます。今日伺ったお話しをもう一度裁判の時に、して頂く事になると思います。宜しいですよね?」

「さ、裁判ですか?……出なければ駄目なんでしょうか?」

「私共の方で申請をし、裁判官が必要と認めた場合は、応じて頂く事になります」

「そうなんですか……」

 日高典子の声は、今にも消え入りそうだった。

「心配しないで下さい。今日と同じような質問をさせて頂くだけです。ですから、今日、私に話して下さった通りに答えて頂ければ何も問題はありません」

 裁判所という所は、普通の人間にとって、好んで行きたい場所ではない。ましてや強盗殺人事件の重要証人として出廷するとなれば、尚更だ。

 森山は精一杯の笑顔を作り、何度も心配無いと日高典子に言った。