出された珈琲を一口飲み、

「旨い!ちょっとした専門店並の味ですよ」

 と、やや大袈裟に褒め、場を和らげようとした。

 多少は森山の気遣いが伝わったのか、日高典子は少し寛いだ表情になった。

「お仕事でお疲れのところ、本当に済みません。何度も警察とかで聞かれた話しを又して頂く事になります。少々うんざりされてらっしゃると思うのですが、私の弁護人という立場をご理解頂ければと思います」

「いえ。私でお役に立てるのでしたら……」

「日高さんが、その妙な男性を見たのは、夜の何時位だったのですか?」

「はい。確か、9時半にはなってなかったと思います。」

「その根拠は?」

「勤め先の池袋迄バスで通勤していて、その日は、8時57分発に乗れたんです。
それで、私の降りるバス停に着いたのが、だいたい9時20分を少し回った頃だったと思います。このアパートに着いたのが丁度9時30分だったので……」

「妙な男を目撃した場所は?」

「このアパートの少し先にある100円パーキングの辺りでした……」

「目撃した時の様子を話して頂けますか?」

「バス通りから一本入って直ぐが、その100円パーキングなんです。丁度、真正面の方向から一人の男の人が歩いて来たんです……」

「それで、変だなって思ったのは、どういうところを?」

「はい。この辺は、昼間でもたまに変質者が出る事があって、夜なんかは何時も気を付けてたりしてたんです。
 その日は、夜になっても、暑さが厳しくて、長袖を着ている人なんて殆ど居なかった位でした。それが、正面から歩いて来た男の人は、こう、真冬みたいにジャケットの衿を立てていたんです」

「その姿が変だと?」

「ええ、まるで顔を見られたくないような、それに、ジャケットの前をこう、隠すように……」

「コントとかでやってる露出狂の変質者みたいにって事ですね?」

「ええ……」