森山が真っ先に手を着けたのは、不審人物を目撃した証人との接触であった。

 目撃証人と言っても、それは犯行現場近くで血だらけになってふらふら歩いていた不審人物を目撃したというだけである。

 目撃されたその不審人物が、実際の犯人かどうか判らない。しかし、その裏付けがきっちりとされず、あたかもその不審人物が犯人であるかのようになり、似ているという、極めて希薄な根拠だけで重要証言とし、木山がそれに引っ掛かったのである。

 森山が、日高典子のアパートを尋ねたのは、夜もかなり深まった時刻であった。電話で予め会う約束はしていたが、時間が時間だったので、自宅ではなく深夜営業をしているファミレスの方がいいのではと言った。

「いえ、話の内容が内容ですから……」

 と、日高典子の方が人目を気にし、自宅に来て欲しいと言って来た。

「どうぞ、私も帰って来たばかりで、散らかしてますが……」

 日高典子。

 29歳。

 独身。

 派遣社員として、池袋にある保険会社のコールセンターに勤めている。

 森山の第一印象は、ごく普通だった。

 話をして行くに従い、余りはっきりとした物の言い方をしないタイプかなと感じた。

 余りにもはっきりと喋らない時もあり、さほど短気でも無い森山も、さすがにいらつきを顔に出す位だった。

 自己主張をしないタイプ。

 裏を返せば、少し押しの強いタイプから意見を強要されたり、同調を求められたりすれば……

 森山は、微細漏らさず日高の言葉をノートパソコンに打ち込んで行った。