五分後、私は一枚の写真を見せられて身体を強張らせていた。

 その写真には一人の女性らしき人間が写っていた。

 人間……

 言い方を変えよう。

 惨たらしい死体……

 顔が異様に腫れ、光りを失った両目が虚に一点を見つめたままでいる。衣類は所々引き裂かれており、大きな黒ずみが見える。それが血である事に気付くのに、さほど時間を必要としなかった。心臓辺りがぱっくりと割れ、白っぽい脂肪と肋骨らしきものが覗いている。

 一分とその写真を正視出来るものではない。

 顔を背けた。

「見れねえよなあ、そん時の事を思い出しちまったら……」

「……?」

「ガイシャはまだ二十そこそこの若い女の子だったんだ……。
 木山、本来はこういう写真は見せねえんだが、俺としても、お前の良心ってえものに訴えてみたかったんだ」

「……」

 漸く意味が飲み込めた。

 私は殺人事件の容疑者にされているのだ。

 それも、刑事達は私を最有力容疑者として……

「じ、自分はやってない……」

「ん?何て言った?もう一ぺんはっきり言ってみろ!」

 か細い声で答える私に刑事が容赦なく怒声を浴びせて来る。

 過去、私は何度も刑事達の取調を受けたが、恐怖を感じた事など無かった。寧ろ自分の犯した罪を告白して行く事で心の安息を得たりする事の方が多かった。

 初めて取調室の中で恐怖感を抱いた。

 身に憶えの無い事件の犯人に仕立て上げられてしまうという恐怖……

 暫く無言のやり取りが続いた。

 刑事部屋から、見るからにキャリアの匂いをさせた四十半ばの刑事がやって来た。

「どんな感じだ?」

「課長、大丈夫です。今夜中には調書を巻けると思います」

「そうか。判ってると思うが、焦り過ぎないように頼むよ。事実関係の裏だけはきちんと取ってくれ。本人の証言と物証で不一致の所が一つでもあると後々ひっくり返されたりして面倒になるからな」

「はい、その辺は充分に」

「頼んだよ。木山、よおく思い出して話してくれな。じゃあ……」

 課長が出て行くと、取調室の扉が再び閉められた。

 私の身体中に一層の恐怖感が湧き上がって来た。