登録外の携帯番号――。

いろんな考えが頭を巡る。

さっき驚いたままのバクバクとした心音の中、着信は鳴り続いてる。
この発信主はいったい誰なのか。
混乱と迷いで応答できずに固まっていると、着信が途切れた。

相手が誰だかモヤモヤしていると、今度はショートメッセージの着信音がして飛び上がる。

相手が誰かという疑問が払しょくされずすっきりしない私は、思わず震える指でショートメッセージを開封してしまった。

【助けて、茉莉】

たった一言。それだけの内容。
それを瞳に映し出した瞬間、心臓がぞわりと震えあがる。

これは……きっと、ううん。絶対に広海くん。
まさか、別の番号を使ってまで――。

この前までのメッセージ内容は、私に対して横柄な態度や傲慢な雰囲気が嫌という程感じられる怖いものだった。

だから余計に、この文面のギャップが私を困惑させる。

もう関係ない。私からそう切り捨てた。
こんな感情、ただの偽善だってわかってるつもりなのに。

だけど、もし……もしも、本当になにかあったんだとしたら?

そんな不安が一度頭を掠めてしまうと、どうしてもその不安が拭えなくて。

私はゴクッと唾を飲んで、ふぅと息を吐くと返信ボタンをタッチした。

【どうしたの?】

電話はやっぱり怖い。ショートメッセージくらいなら逃げ道はまだあるし、大丈夫。
そんなふうに言い聞かせ、何度も迷いながらついに私はそのメッセージを送信してしまった。
すると、数秒後に再びショートメッセージの着信が来る。

まだ収まりやらぬ心音の中、メッセージ内容を見た私は、その速い鼓動が一瞬止まった錯覚に陥った。

【昨日から熱がすごくて動けない。薬もないし、頼れる人がいないんだ】

それから、ドクンと大きく胸が鳴る。

こんな返信を見てしまったら、どうしたらいいんだろう。
これは嘘? ホント?
やっぱり返信なんかしなければよかったの?

でも、もし、これが本当だった時、私はそうしなかったことを後悔する――。

グッとスマホを握り締め、それをテーブルに置くと、今閉じたばかりのクローゼットを開いて着替えを始める。
パンツスタイルを選んだのは、せめてもの意思表示。

スカートを好んでいた広海くんに合わせていた私は、もういないんだよ、と。