嘘と正義と、純愛と。

都合のいい自分の汚い欲を認めた私は、斎藤さんを家に招き入れる。

予想通り真っ暗で静寂な家の中に安堵の息を心の中で漏らす。
真っ直ぐに自分の部屋へと案内すると、いまさらものすごい緊張感が襲ってきた。

横目でちらっと見れば、私の部屋に斎藤さんがいる。
なんで急にこんな展開になってしまったんだろう? 仕事を上がって、エレベーターを待っていた時にはこんなこと想像もつかなかった。

六畳半の部屋にふたりで立ったままいると、斎藤さんはまた吹き出すように笑って両手を軽く上げた。

「安心しなよ。狼にならないから。別の男のことで震えてる女を無理矢理抱くほど無神経じゃない」

私が目を丸くしてると、彼はベッドに寄りかかるように腰を下ろして目を伏せながら続ける。

「ただ、一緒にいるだけ。さっき元カレの電話もメッセージも拒否設定したし、なにも考えなくていい。ああ、俺のことを考えてくれるのは歓迎」
「っあ! な、何か飲み物持ってきます」

勢いよく部屋を飛び出して、後ろ手でドアを閉める。
大きく息を吐いて、ゆっくりと階段を下った。

『なにも考えなくていい』って言われても、やっぱり緊張しちゃうし、なんで今私の部屋に斎藤さんがいるんだろうって考えちゃうよ。
もちろん、そんないかがわしい想像なんてしてなかったけど! ……けど、あんなふうに言われちゃったら、変に意識しちゃうよ。

リビングは電気を点けずキッチンの蛍光灯だけ点けた場所で、ひとり、自分の唇に触れて目を閉じる。

柔らかい感触。
もうずっと、あんな優しいキスなんてしてなかった。

強引で、こじ開けられて捻じ込まれて……押し付けられるようなキスの記憶しかない。

だから余計に、こんなに余韻が残ってるのかもしれない。