嘘と正義と、純愛と。

彼の言った言葉は至って普通の言葉。
誰だって、翌日休みという話を振られれば、別れ際に言う決まり文句みたいなものだ。

だけど私はどうしても上手く笑えなくて、微妙な表情と返事を返してしまってひどく後悔したのと同時に、情けなくなくなる。

好意を向けている相手にこれ以上心配かけてどうするの。
こんな困った顔とか苦しい顔ばっかり見せてないで、もっと笑ったりした方がいいに決まってるのに。

私がもう一度、今度こそ仕事中と同じように笑顔を作って見送ろうと顔を上げた時に、真顔の斎藤さんが顔を近づけてきて竦んでしまった。

斎藤さんは私の頬に温かい手を滑らせ、心を探るような目を向ける。それからその右腕で少し乱暴に頭を彼の胸に押し付られると、頭上に声が落ちてきた。

「……家族。ほとんど外出してんだっけ?」
「え?」
「じゃあ、今もいないの?」

胸に顔を押し付けられたまま繰り出される質問。
私はそこから動くこともせずに、ただ、小さく頷いた。

今週はお姉ちゃんこの時間は仕事だったはず。お母さんもサークルで忙しいって言ってた。
お父さんは……仕事もその関係上の付き合いでも忙しそうで、こんな時間には滅多に帰ってこない。

それを頭の中で再確認してから、そっと顔を離して斎藤さんの胸の中から見上げる。

「そんな不安そうな顔されたら、帰るに帰れない」

両手で顔を包まれて言われると、普段、〝ひとりで頑張る〟という意思も脆く崩れてしまって寄りかかるしかなくなった。

人間てダメだな。一度甘やかされると、ついそれがクセになるように、今までしてきたことが出来なくなりそう。
だけど、やっぱりひとりは嫌だし、彼とまだ一緒にいたい。