嘘と正義と、純愛と。

唇が合わさる直前に、確かに彼はそう言ったと思う。
だけど、あとは、甘い感覚が私の全部を支配してなにも考えられない。

首の後ろで、きゅっと掴まれる髪が心地いい。あまりに心地よすぎて、もう少しと願ってしまうほど。

けれど、斎藤さんは短めのキスで留めてしまって、きっと私は物足りなそうな顔をしてしまったに違いない。

いつの間にこんな女になっちゃったの。

自分に呆れながら、斎藤さんに対しての気持ちも否定出来ずに俯いた。
この間まで彼氏もいたのに簡単に気持ちが傾く自分が許せないと思ってしまう。でも、今目の前にいる彼に惹かれる気持ちを制御する方法がわからない。

こんなはずじゃないのに……こんなに軽い女じゃなかったのに。
私の方こそ、調子が狂ってしまう。

自分を戒めるように、右手で左肘を押さえて身を反転させて斎藤さんとの距離を取る。
これ以上彼の方を見てしまったら、キス以上でもねだってしまいたい気持ちになりそうで。

こんな思いをしてるなんてことまでは、気づかれてないよね?

顔を逸らしたまま黙っていると、斎藤さんが突然失笑した。

「そんなに警戒しなくても大丈夫だって。実家目の前にして、送り狼にはなれないから」

そんなことされるかもだなんて考えてなかった。それよりも、私のこの態度が自意識過剰に感じられたんだと思って顔から火が出るくらいに恥ずかしい。

「ちっ、違っ……! 警戒なんて! 考えてもなかったですから!」
「あ、そう。それは少し残念」

クシャッと私の前髪を撫でながら笑う顔に、やっぱり胸が高鳴る。
メガネの奥の目を優しく細めて、斎藤さんは手を放した。

「じゃあな。明日はゆっくり休んで」
「はい」