嘘と正義と、純愛と。

東雲さんは、ピンク色の唇を小さく弓なりに上げて「そんなことないですよ」と隣に腰を下ろした。
その時にふわりと届く、甘い匂い。

なんだろう? 香水かな? でも、香水っていつもきつく感じる人がほとんどなのに、東雲さんのは本当にいい香り。
まるで、砂糖菓子のような……。

それは彼女を纏う香りだけではなくて、全てにおいて、スイーツのような印象を受ける。

ふわっと綺麗にセットされた髪を見て、ふと、自分の毛先へと視線を落とす。

……今日は広海くんの家からだったから。
自分の家からだったら、もうちょっと道具とかもあって、マシな仕上がりになってたとは思うんだけどな。

でも、昨日は広海くんが『帰るな』っていうような雰囲気だったし仕方ない。
だけど、そもそも昨日自分の家に帰ってれば、着替えだってできたし髪も巻けたし。

痴漢にも、遭うことなかったのにな……。

斜め下一点を見つめながらボーッと暗い思考に囚われていると、いつの間にか開店前になったようで。
入り口を開ける担当の人が横切って行くと、東雲さんが立ち上がった。
それに倣って私も慌てて立ち上がる。

なにをいつまでも考えてるの! もう過ぎたこと! 仕事に専念!

心の中で厳しく叱咤しつつ、表では満面の笑みを浮かべてお客さんに頭を下げる。
でもやっぱり「おはようございます」と口では言うものの、頭の中は全く違うことを考えていた。

それは、今朝の出来事の続き――。