電車(まえ)の時と同じ表情(カオ)してる」

弾かれたように顔を上げると、斎藤さんが顔だけを私に向けるようにして、心の奥を見透かすような双眸で見つめてた。
一階についてドアが開くけど、それを気にする素振りも見せず、真っ直ぐと見据えたまま言う。

「言いたいこと溜めすぎるとそのうち壊れるぞ」
「そ、そんなことは、なにも……」

ジッと目を逸らさずにいられるせいで、一歩も動くことができない。
小刻みに震えてしまってるのは、斎藤さんが逃がしてくれないからではなかった。

今度は身体を翻し、私ときちんと向き合った彼は、ゆっくりと私に近づいてくる。
視界の奥では扉が閉まっていくのを見ていたけれど、それを指摘する余裕なんか持ってない。

斎藤さんはトン、と私の顔の横で腕をつくと、間近で見下ろして囁いた。

「ウソ吐くなら、もっと上手く吐けるようになれ」

その言葉にカァッと身体が熱くなる。

この人は、本当にどこまでわかっているの?
まるで裸にされる気分は、当然慣れることがない。
不安定な私は、こうやって『気付いてます』と言うような言葉や態度を取られると、簡単に崩壊してしまう。

ブルブルと震える肩にもう一方の手を置かれた。
その力強い手に気が緩んでしまった私は、糸が切れたように足から崩れ落ちる。
それを助けてくれるように身体を支えられると、触れられてる面積が多くなって斎藤さんの体温をより一層感じてる気がした。

頬を上気させ、密着している彼の顔を仰ぎ見る。
純黒色の瞳と視線が絡むと、私はもう逃れられない。

瞬きも出来ず、ただ、その深い色の瞳が近づいてくるのを見ていた。
すると、いつの間にか距離はなくなっていて、斎藤さんの目が見れなくなる。

その代わり――私の唇が、彼の熱を感じた。

塞がれた口からは、拒否するような言葉が漏れることはなく、甘い吐息が時折溢れる。
一度離された唇を、薄目の彼が私と視線を絡ませながら再び重ねる。

すごく、優しいキス。
あったかくて、守られるような……。