靴を脱ぎ、丁寧に揃えて立つのは美人な女性。
ストレートの黒髪に、カジュアルなパンツスタイルのその人は、足も長くてスタイル抜群だった。

ジッと見つめても、やっぱり私には思い当たる人がいない。
ていうことは、広海くんの知ってる人? でも、この間街で見かけた人とは全然違うし……。もしかして、浮気相手ってひとりだけじゃないの?

そんな疑問を頭に浮かべ、背を向けて立つ広海くんの顔をそっと仰ぎ見ると、思っていたような表情ではなくて目を剥いた。

え……? 呆然として戸惑ってるように見えるけど、この人は広海くんの知り合いじゃないの?
じゃあ、この人は一体誰なの?

スタスタと部屋を真っ直ぐ歩き進め、女性が向かってきたのは広海くんの目の前。

その様子をぽかんと口を開けて見上げる。

「あ、あなたは誰ですか? 茉莉の知り合いですか? なんで勝手に上がってきて……」
「ええ。田中(たなか)裕子(ゆうこ)と申します。茉莉ちゃんとは職場で仲良くしてもらってます」

田中裕子? 職場で? 待って。この人何言ってるの?

目を大きく見開いた私に、田中裕子と名乗った歳上の女性は落ち着いた微笑みを向けてきた。その笑顔を見ると、本当に私の知り合いなんじゃないかって思ってしまう。

でも、やっぱり知らない。
百貨店だからテナントや売り場はたくさんあって、さすがに全員の顔までは覚えてない。その中で、この人とどこかで接点があったのに私が忘れてるだけなのかな?

なにが正しいのか、わけがわからなくなる。

「それは、いつもお世話になってます。でも、なんでここに? 茉莉がなんか言ったんですか?」

よそ行きの貼り付けたような笑顔で広海くんが対応すると、田中さんは怯むことなく、にっこりと弓なりに口を上げた。