嘘と正義と、純愛と。

「私語は感心しませんね」

突然聞こえた低い声に、ギクリと身体を強張らせて顔を上げる。
叱られると思って見た先にいたのは、上司や先輩ではなくて、斎藤さんだった。

「申し訳ありません。以後、気を付けます」
「……申し訳ありません」

それでも注意されることをしていた事実は変わらない。
私はバツが悪くなって俯き、隣の東雲さんの様子を窺うと、彼女は斎藤さんの視線から逃げるどころか、真っ直ぐと向き合っていた。

「全くするな、とはいえませんけど、ほどほどに。せっかくの可愛い受付嬢の印象が悪くなっちゃいますよ?」

微笑を浮かべながら斎藤さんが言うと、東雲さんは顔色一つ変えず「すみません」とひとこと謝った。

さりげなく『可愛い』って言ってた。
東雲さんは確かに可愛い。それは私だって認めることだけど、どうしてこんなにちくちくと胸が痛むんだろう。

東雲さんの今の反応から、絶対斎藤さんのことを意識なんかしてないのはわかる。
だからといって、彼が誰を可愛いと思って特別な思いを寄せるのかはわからないし、自由だ。

もしかしたら、斎藤さんは私だけじゃなくて、他の人にも同じように接しているのかもしれない。
そう思ったら、無性に……。

窺うように顔をそろりと上げると、メガネ越しの瞳と視線がぶつかる。

私が斎藤さんを気にして顔を上げたってこと、バレた!
どうしよう。焦ってまた目を逸らしちゃったけど、これって余計に変に思われるんじゃない?

硬直状態の私は、息すらもするのを忘れていた。
そのまま彼がすぐそばにいたなら、窒息してしまっていたかもしれない。
なんて、馬鹿げた考えをしている間にも、斎藤さんは私たちの元から去って行った。

遠くなる彼の背中を見つめ、知らぬ間に力を込めていた手を緩める。