嘘と正義と、純愛と。

「……自分を、信じたいから」

何、わけわかんないこと口走っているんだろう。

営業中に斎藤さんと対面して思ったことが見事に当たった気がした。
やっぱり、彼の瞳の前では、本音を曝け出してしまいたくなる。

ギュウッと両手を握り締め、固く唇を噛む。
込み上げてくる涙をどうにか堪えていると、突然視界が覆われた。

「もっと、人に寄り掛かることを覚えろ」

それは初めて聞く、斎藤さんの素の口調と低く艶のある声。
初めてのはず……が、その声もどこかで耳にした気がする。

それを思い出したくても、今腕を背中に回されて密着しているという状況に、まともな思考ではいられない。

斎藤さんの心音、体温、力強い腕。
あまりに心地よくて、抵抗することも忘れていた。

優しい言葉を反芻しながら、仄かに香る彼の匂いに、何かの記憶が繋がりかける。

ガチャッとドアが開く音と複数人の足音にびくっとして、慌てて斎藤さんの胸に両手を突っ張った。

「わ、私、急いでるので! お先に失礼いたします!」

パッと立ち上がると、それに倣うように斎藤さんも立ち上がる。
私は彼の顔を見ることが出来ずに、俯いたまま横切って階段を降りようとした。

「待って」

すれ違いざまに左手首を掴まれると、斎藤さんがポケットから出したポストイットを左手に乗せた。
恐る恐る目を向けると、手のひらの上で、携帯番号を走り書きしている。
書き終えると、一番上を剥がし、改めて私の手に握らせた。

「俺の番号。なにかあったら、いつでも連絡して」

その言葉に彼の顔を凝視してしまう。
目に映った斎藤さんは、ふざけてるようにも見えなくて、私は顔を赤くしてそのまま振り返らずに階段を駆け下りた。

なに? なんなの? どうしてこんなふうに優しくしてくれるの?
出会って間もない、こんな私のことを。

息を切らして一階に着くと、握り締めていた左手をゆっくりと開く。
斎藤さんからもらった連絡先をしばらく見つめて、それをそっとカバンの奥にしまった。