嘘と正義と、純愛と。

「ごめん。大丈夫ですか?」

……この声、もしかして――。

目を大きく見開いて、今度はそのすらりと長い指をした手から上へと視線を滑らせていく。
完全に見上げた先には、予想していた人の顔があった。

「今日はよく階段で会いますね」
「さっ、斎藤さん?!」

どうして! 斎藤さんの仕事って、こんな時間まで店内を見て回るものなの?!

衝突した相手にあまりに驚いて、自分の姿を気にすることを忘れていた。
それに気づいたのは、反射的に斎藤さんの手を取ったときに注がれた視線を感じたとき。

「……っ!!」

一瞬重ねた手をバッと離し、転んだ時に太腿まで捲れていたスカートの裾を勢いよく正した。

恥ずかしい、恥ずかしい……!
……だけど、それよりも。

「……右腕のと同じ相手にやられたんですか?」
「……え?」

ドクンドクンと心地悪く脈打つ心臓と、背中を伝う冷たい汗。
勝手に手が震えてきて、それを抑えるように両手を合わせ握る。

ぺたんと未だ床に座り込む私の視線に合わせるように、斎藤さんはしゃがみ込んで真面目な顔を向けてくる。

「昨日。案内してくれるとき、エレベーターのボタン、一度躊躇したでしょう? それで結局左手で押した。今日見てたらどうやら左利きってわけでもなさそうだし」

この人、一体何者……?
たったあの行動だけで、そんなことを言ってくるなんて。