最後まで頭を下げてくれたお母さんを見送って、私は階段へと向かう。
あんなふうにお礼を言われると、当然のことをしただけなんだけど、どこか嬉しく感じてしまう。

きっと、受付だけじゃなくて仕事ってこういう出来事がやりがいだと感じる瞬間だと思う。

褒められたりお礼を言われたり。
たったそれだけのことで、『次もまた頑張ろう』って気持ちになれるから。

誰かに必要とされたら、やっぱり嬉しくて……だから……。

「こんにちは」

俯いて、考え事をしながら歩いていた私は、人の気配に気付くのが遅れてしまう。
慌てて表情を取り繕って顔を上げると、そこに立っていたのはお客さんではなかった。

「あっ……こ、こんにちは。お疲れ様です」

ペコッと頭を下げてどうにか挨拶を交わす。
突然声を掛けられたことも、動揺してしまった原因のひとつではあるが、たぶん大きな原因はそれじゃない。

「親御さんが見つかってよかったですね」

あまり使用されない静かな階段で、コツッと足音を立てて近づいてくるのは斎藤さん。
彼が突然現れたから、私はこんなにもびっくりしているんだと思う。

瞬きも忘れた私を真っ直ぐと見つめ、斎藤さんは笑いを零した。

「あの子の親を探す一生懸命さが、見ていて伝わってきましたよ」

可笑しそうに口元に握った手を添えて言われたことに、いつの間にか見られていたんだと恥ずかしくなる。
頬を薄らと赤らめて、目の前に立つ斎藤さんを見上げた。