おずおずと広海くんのベッドに歩み寄り、ちょこんと脇に浅く腰掛ける。
すると、力強い男の人の手が私のお腹に絡みついて、容易くベッドに引き倒された。

まるで抱き枕のように私を包み込んだ広海くんは、大きな手で頭を撫でながらぽつりと漏らす。

「……ごめんな」

いつもこう。
なにかにイラついて、頭に血が上って。その勢いで私に当たってくるけど、最後には甘えるように囁いてくる。

付き合い始めてもう1年経つけど、ずっとこんな感じ。
……いや、付き合い始めの頃は違ったかな。

広海くんと付き合ったのは去年、私が社会人一年目だった時。
当時他社の営業2年目だった広海くんが、道に迷って受付に立ってた私のとこに尋ねてきたのがきっかけで。

私は新入社員だったから、うまく対応してあげられなくて。
だけど、その日わざわざお礼言いに来てくれて、それから間もなく付き合うようになった。

二十歳過ぎても交際経験のない私には、毎日が新鮮で。
誰かの特別になれたんだ、と日々充実してた。

昔を思い出していると、気付けば広海くんの手が止まっていることに気付く。
そっと顔を上げると、彼は寝息を立てて寝てしまっていた。

起こさないように彼の手から離れると、足元にあった掛け布団を掛けてあげる。
その寝顔を見て、さっきまでの続きを思い出す。

こんなふうになったのは、半年前くらいから。
それは付き合ってからも半年くらい経った頃で、突然のことだった。

広海くんが、会社の人と折り合いが合わないから仕事を辞めてきたって急に告白してきて。
そのせいなのか、彼がだんだん精神的に不安定になってきてる気がしたのを覚えてる。

しばらくは家に籠もって、たまに面接なんか行ってたみたいだったけど、うまくいかなくて。
それで結局、短期間のアルバイトで食いつなぐような日々になって今に至る。

前に機嫌のいい時にそれとなく仕事のことを聞いてみたら、『長く同じとこにいたら嫌なヤツとずっといなきゃなんないから短期がいいんだ』って言っていた。

「ん……」