「野原さん!」
「あ、東雲さん、お疲れ様」

翌日の休憩時間に、偶然遭遇した東雲さんが飛びつくように私に声を掛けてきた。

「今日、私たち早番じゃないですか! こんなこと滅多にないですし、どこか終わってから食事に行きませんか?」

彼女は色づいた綺麗な唇を私に寄せると、小さな声でそう言った。

こんなふうに誘ってもらえるなんて、光栄だしすごくうれしい。
だけど。

「あー……ごめんなさい。今日は先約が」
「えっ。それって彼ですか? ていうか、野原さんって今どんな状況なんですか? 夜がダメならランチはいいですか? 今から外に食べに行きましょう」
「えっ。えっ?」

腕を絡ませられ、そのままずるずると強引に引きずられてしまった私は、ロッカーの中のお弁当に心の中で小さく謝る。
そのまま東雲さんのペースに引きずられて、外でお昼を済ませてしまった。

あれやこれや質問攻めはされたけど、不思議と嫌な気持ちにはならなかった。

それはきっと、彼女のことを私が受け入れているからかもしれない。
それと、問われて答える内容が、私にとって幸せな内容だったから――。


「……っていうことがありまして。東雲さんって、意外にパワフルっていうか。初めはもっと淡泊で大人びた印象だったんですけどね。なんか可笑しいんですよ」

私はお昼の出来事を思い出しながら、一弥さんの前で堪え切れずに笑いを零した。

「ああ。なんかそういう感じしたな、あの子。でも茉莉と気が合ったっていうのは意外だったな」

隣で静かに笑って話すのは一弥さん。
昨日、家まで送ってくれた一弥さんが別れ際に、『明日何時まで?』って聞かれて今日の約束した。

仕事後に会える。
今度は探したり、追いかけたりしなくてもちゃんと会えるんだ、と一日中ドキドキしていた。

そして今、並んで歩く彼を見上げては、いちいち鼓動が騒いでしまう。