嘘と正義と、純愛と。

それは本当に意外だったようで、目を瞬かせてまじまじと私を見た。
口元に大きな手を添えて固まってる姿の一弥さんに、私は小さく反論する。

「『こんなこと』なんかじゃないからです」
「え?」
「だってもう、全部が奇跡みたいで」

触れられること。目を合わせられること。
出逢えたこと。自分を見てくれたこと。

全てが奇跡で尊いものだと感じてしまって、勝手に涙が流れてしまっただけで。

――ああ、もどかしい。
この私が今感じていることをすべて伝えられたらいいのに。

もっと日ごろから相手に自分の気持ちを伝えることをしていたら、もう少しくらいこの感情を伝えられたかもしれないのに。

だけど、今の私にはうまい言葉が見つからなくて、ただこの溢れ出る感情を視線に乗せて訴えるくらいしかできない。

すると、不器用な私の思いがほんの少しでも通じたのか、一弥さんは不意にまた、私を引き寄せると抱きしめた。
彼の香りに包まれると、胸が甘く切なく締め付けられて、苦しくなる。

でも、すごく幸せ。

「一弥さんの匂い、すごく落ち着きます」
「あのさ。それ、前も何度か聞いた気がしてずっと引っかかってたんだけど、それ、本当に俺の匂い?」
「え? だって、一弥さんからしかしない……」

てっきり、なにか香水でもつけてるのかと思うくらい、柔らかい香りなんだけど。

きょとんとして答えると、困ったような不思議そうな顔をして一弥さんが口を尖らせる。

「香水なんか絶対つけないし、洗剤とかも別に普通だし。ていうか、俺のこれまでの仕事ってあまり記憶に残るようなことはタブーなわけだから」
「確かに。他の人とか……みのりさんとかは、今まで何も言ったりしませんでしたか?」

きつくはないけど、微かに一弥さんの香りっていうのが私にはわかるから。

疑問に思いながら聞き返すと、彼は思い出すように宙を見ながら言った。

「いや。茉莉に言われてから気になって、一度みのりに聞いたんだけど」