嘘と正義と、純愛と。

「そんなの慣れてたはずなのに……ずっと茉莉に『斎藤さん』て呼ばれる度に違和感があった。罪悪感とでも言うべきか」

ドクン、とひとつ、私の中心で大きな音が響く。

都合のいい解釈をしちゃだめ。

そう戒めるけれど、それに反するように心拍数は上がるばかり。
熱くなる顔をゆっくりと上げ、彼と目が合う。

「まぁ、また偽名って思われるかもしれないけど」

悲しげに震わせた目を見た瞬間、抑制していたものが一気に溢れ出る。

一方的でもいい。
彼の本心がどこにあってもいい。

「思いません。だから、その名前であなたを呼んでもいいですか……?」

騙されてるかもしれないとも不思議と思わない。
私みたいな女が、男にハマって泣きをみるのかもしれないけれど。でも、絶対に――。

「一弥さんは、これ以上私に嘘をつくことをしないはず」
「なんでそんなこと言えるの?」
「だって……。さっきから、手が……ほんの少し震えてるから」

私に触れてる手が、前までのものとは少し違う。
斎藤さんでいた時の彼は強引なくらいに私を引っ張っていてくれたけど、今はそっと確かめるように……窺うように手を乗せてる。

「ははっ。あー……カッコ悪ィ」

吹き出すように笑う顔を見るのは初めて。
今までの印象にはない、その少年のような笑顔に見惚れていると、一弥さんは空を仰ぎながら言う。

「でも、昔からずっとかなり神経使う仕事してたのに、こんなに緊張したことって確かにないな」

月の光を目に灯すようにキラキラと静かに煌めかせながら失笑すると、その瞳を向けられて、私は射抜かれるような感覚に陥る。

「色んなこと考えてたけど、結局俺は、茉莉の前にこうして立ちたかった。ちゃんと、奥村一弥として」

正面切ってそういった一弥さんは、ドキリとするような甘い緊張を感じさせる雰囲気で真剣な顔をしてた。

その先に続くのは、私が欲しい言葉かもしれないと自惚れて、期待して。
ただ、涼やかな風に僅かに揺れる彼の前髪を見つめる。

その隙間から覗く目は、鈍色にも藍色にも似た深く吸い込まれる瞳。
――意識が持っていかれそう。
そんなことを考えた時に、彼の声が耳に届く。