嘘と正義と、純愛と。

「俺、もう長らく仕事柄、殺傷事件とか強盗とか……浮気調査とか日常茶飯事だし。そういう……なんか、人の汚い部分をよく目の当たりにしてきたから」

グッと肩に手を置かれ、少し距離を離されると、彼は俯いて言葉を紡いでいく。

「嘘とか体裁とか。自己都合中心って人間しか見てこなかったし。俺も同じようなもんだし」
「同じだったら、今こんなふうに辛そうな顔してまで私と向き合ってなんかくれてないと思います」

自嘲気味に笑って言うことに、私は真剣に否定する。

平気で嘘をつける人間なら、もっと初めから違う関係だったはず。
こんなに、惹かれるわけない。

「絶対、あなたはそっち側の人なんかじゃない」

彼を見上げてそう言い切ると、目を丸くして私を見てからなぜか彼は項垂れた。

「はぁ。参ったな。いつの間にそんなに強くなったんだ?」

彼は、前髪を大きな手でくしゃりと握りながら漏らす。

強くなっただなんて、自分じゃ全然わかんない。
今でも自分に絶対の自信なんて持てないけど……唯一、迷わない気持ちがあるのは確かだ。

「潜入してる時は、〝守ってやらなきゃ。放っておけない〟……そう思ってたのに、少し会わない間にすげぇ成長してる」
「そんな私はもう、あなたには必要ありませんか?」

自分でそんなことを口にして悲しくなってくる。
涙目になるのを堪えようと俯いた時、ふわりと風が動いてその香りに包まれた。

温かい感触に目を見開き、彼の中から空を仰ぐ。
滲んで見える月は、さっきまで蒼白かったのに今は黄金色に見える。その輝きに当てられていると、頭上から声が降ってきた。

奥村(おくむら)一弥(いちや)
「え?」
「俺の本当の名前。あの仕事してたらこの名前口にすることなんかほとんどなくて、忘れるんじゃないかってくらいだったな」

奥村、一弥……。やっぱり、『イチヤ』は本当の名前だったんだ。

本名を教えてもらっただけで、彼に近づいた気がしてしまう。
ただ名前を知っただけで、彼の気持ちがどこにあるのかはまだわからないのに。

自分の期待している結果へ暴走しそうになる心をグッと堪え、顔を引き締めた。
そしてなにを口にしようかと思っていたところに、ポンと厚い手のひらを頭に乗せられる。