嘘と正義と、純愛と。

「本当は、初めからこの駅で茉莉が俺を張ってるって気づいてた」
「えっ」
「そりゃそうだろ。俺、一応そういう仕事してたんだし、気づかないわけないって」

突然、いつもと同じような口調に戻って言われたことに拍子抜けしてしまった。

そんな……。だったら、この数日間、うまく交わされて逃げられてたんだ私。
あれだけ神経尖らせてたつもりなのに、全然気づかなかったし……。

あれだけ気にしていたのに見つけることも出来ず、むしろ見られていたなんて知って、少し悔しい思いになる。
でも、考えたら捜査一課とか探偵とか、そういう仕事のプロだったわけだから仕方ないんだけど。

抱きしめられた態勢のままだから、どんな顔をしているのかわからない。
ただ、顔のすぐそばで、彼の落ち着いた声が優しく耳に届き、心に響いていく。

「本当のこと言うと、お前に見つかりたかった……けど、正直、あんなふうに裏切ったのに、どんな顔していいかわかんなかった」
「どうして、あのまま私を裏切り続けなかったの……?」

素朴な疑問だった。
私やお父さんに近づいてきたという案件が初めての仕事ではないだろうし、そういうのを今まで何度となく割り切ってきていただろうと想像していたから。

広い胸の中で呟くように言った疑問に、少し間を置いて答えてくれた。

「あの時、守りたいって思ったんだ」

抱きしめられたままというだけで身体が熱くなってるのに、その答えを聞いて全身が沸騰するくらいに体温が上がった。

そんなふうに思ってくれていただなんて、本当にうれしい。
でも、『あの時』って……?

疑問符が浮かんだタイミングで、さらに続けられる。

「あの元カレから、震えてんのにその小さな身体で俺を庇うのを目の当たりにしてから」

あの時のことは、正直頭で考えて動いたというよりも、身体が勝手に動いてた。その瞬間は痛みもワンテンポ遅れて感じるほどで、あんまり詳しく覚えてない。

ただ、目の前でこの人が痛みに顔を歪めるのを見るのが嫌だって、瞬時に思った。