たったひとこと聞かれて、なにを一番に言おうとしていたのか一瞬飛んだ。
慌てた私は、どもりながらもなんとか用件を口にする。

「あ、あの、以前の依頼の件について……。一体なにが起きてたんだろう、って」

本当は開口一番に彼の本名や所在を聞きたかったのに、この期に及んで怖気づいてしまった。
少しの時間しか許されてないのに。

そう後悔してももう遅くて、みのりさんの反応を待つしかない。
その間にも、彼について切り込めるチャンスを窺いながら……。

「もう知ってると思うけど、私、これでも調査員なのよ? 調査済みの件だからって口外することは禁止されてるの。言えるわけないでしょ?」
「あ……。そ、そう、ですよ……ね」

冷静に考えればわかることだったのに。
この人たちの職業にとって、信用問題にかかわることじゃない。

当然、少しでも関係していた私相手になら余計に、事情なんて口を割ってくれるはずなんてない。
……でも、それなら、別のことでもいいからなにか聞き出さなきゃ。

焦燥感に駆られながら、コーヒーになんか目もくれずに考えていると、相変わらず私の方を見向きもしないみのりさんがぽつりと漏らした。

「だから、ここから先は私の単なる独り言よ」
「え?」

状況がすぐに把握できなくて、目を丸くさせる。
みのりさんの綺麗な横顔を瞳に映しながら、彼女の唇が淡々と動くのに必死についていく。

「あいつ……イチヤは、あの日、依頼に背いたのよ。私たちは頼まれた案件だけを調べればいいのに。誰かさんに情が移ったのかしらね? おかげで私まで処罰くらったわ」

心の準備ができてなかった私は、ただ、聞き逃さないようにするのに必死だった。
みのりさんはそんな私にもちろん構うこともなく、独り言を続けていく。