そうだったんだ。東雲さんも、自分のためというよりは好きな人のために色々と努力してきたんだ。尽くしてきたんだ。
その気持ちも喪失感もなんとなくわかる。

「……大丈夫だよ。それに、きっかけは人のためでも、今は東雲さんの魅力になってることには間違いないし。私でよかったらいつでも付き合うし」

気の利いたことも言えずにもどかしい。
でも、応援したい気持ちは本当だし、力になりたいって思うから、どうにかそれが伝わってほしい。

真剣な目を向けて陳腐な言葉を並べると、東雲さんはだらしなくしていた身体をスッと起こして私と向き合う。

「本当ですか? 本当に、また付き合ってくれますか?」
「うん。もちろん」
「こんな面白くもない私の話を聞かされてもですか?」
「面白いとか面白くないとかないよ。それに、心を開いてくれてるみたいでうれしいよ」

別に深い意味はなく、単に心からそう思って言っただけのことだけど、東雲さんが急に赤面するから目を瞬かせた。

「野原さんって、やっぱりちょっと変わってますね」

ぼそぼそという姿から、赤面のワケはお酒ではなく照れからっぽい。
首を傾げて「そう?」と答えると、彼女はわざとらしくメニューを開いて目を逸らした。

「イタリアンとかカフェとか。そういうところはひとりでも行けるじゃないですか。だけど、こういうところまでは来れないから。私も、うれしいです」

たぶん、飲めもしない地酒のページに視線を落として、口を尖らせながらそう言った。
いつも澄ましている東雲さんがテンパッてる様子に笑いを零して、私もビールに口をつけた。