「えっ……ちょっと、イチヤ! あんたがこの子の尾行に気づかないなんて」

みのりさんの口から、ついポロリと出た言葉を聞いて、私は目を大きくした。

彼は、もしかして私なんかどうでもよくて驚かなかったんじゃなくて、初めから後をつけてることをわかってたから驚かなかった……?
だとしたら、どうしてここで、まるで私に聞かせるように話をしてたりなんか……。

「イチヤ……まさか、わざと――」
「みのり。もう行け。さっきの話、よろしく」
「どうなっても知らないからね!」

ブォン!と勢いよく発進していった車に見向きもせず、私たちは一定の距離間で見つめ合う。

何から言えばいいの? 責め立てる? 泣きわめく? 縋り付く?
なんだかどれも今の自分の感情と違う気がして何もできない。

もういっそ、このまま時間が止まるか、世界が終わってしまえばいい。
そうしたらこれ以上ショックを受けることなく、済むんだから。

「茉莉」

ただ名前を呼ばれただけなのに、それだけで胸が跳ね上がって泣きそうになる。
ギュッと手を握って胸に当てながら、今一瞬逸らしてしまった目をゆっくりと彼に向ける。

「俺は、ある人に依頼された。君のお父さんについて知りたくて、店に出入りしてた」
「お、父さん……の?」
「初めから知ってたよ。娘がふたりで、ひとりは医療従事者。もうひとりは受付にいることも……その娘の彼氏に問題あることも」

頭を鈍器で殴られた以上の衝撃に、足がぐらぐらする。

「じゃ、あ……初めから……」