顔を上げると斎藤さんがすぐそばにいる気がするから、やや俯きながら彼の足を見て車まで歩く。

車までたどり着くと、斎藤さんが封書をくれた。

「これさっき会計で受け取った診断書。念のため持っておいて」

そう言って封書を手渡すと、彼は助手席のドアを開けてくれる。私はシートに腰を下ろし、その後彼も運転席に座ったのを見届けた後、改めて頭を下げた。

「あの、その、ありがとうございます。いろいろと」

靴を買ってきてくれたり、わざわざ病院に連れてきてくれたり。
助けに来てくれたり――。

「あのメッセージは酷かったな」
「えっ」

正面を向いたまま渋い声で言われ、咄嗟に肩を窄める。
広海くんの家に行く前に、どうしても気になった斎藤さんに送ったメッセージ。

【彼と話をつけに行きます。気持ちは固まってるので大丈夫です】

なんて言葉を紡いでいいかわからなくて、何を伝えたいメールだったのかっていうものになってしまった。
とりあえず、いつも気にかけてくれてる斎藤さんには教えておきたかった。だけど、心配はさせたくなかったから、あんなわけのわからない一方的なものになってしまった。

それについて、今、斎藤さんは憤慨している様子だ。

「あの、無駄なことしてすみません」
「無駄? ああ、確かに」

バッサリと言われた言葉に胸を痛める。
でも当然の反応だとは思うし、結局大丈夫でもなんでもなかったし、何を言われても仕方ない。

「あんな文字の羅列は無駄だった。茉莉は言うのが本当に遅い」

俯いていた顔を上げると、斎藤さんはこっちを見て言った。

「でも、ちゃんと『助けて』って大きな声で言えたな」

広海くんの家を出てから初めて目が合ったかもしれない。

「異常がなくて、本当によかった」

今、目に映る彼は、本当に心から安堵した様子で、同時に心苦しそうな顔をしている。

「まさか、あそこで飛び出してくるなんて思わなかった。人一倍手をあげられるのは怖いだろうし、あの時すでに怖い思いしてたんだろう?」
「あ、はは……なんか、勝手に身体が動いて、て」