ようやく終わったのが受付してから約1時間後。

待合室へとスリッパで向かうと、窓側に腕を組んで立っている斎藤さんを見つけた。

「あ、異常ないみたいです。やっぱり」

結果を口にするや否や、突然斎藤さんが私の前にひざまづく。

急になにを!と慌てふためくと、床に置いていた箱を引き寄せて中身を取り出した。見ると、そこには新しいパンプス。

「え、これ、いつの間に」
「検査中に。履いてみて。サイズ、多分大丈夫だと思うけど」

足元に差し出される靴に、斎藤さんの視線を受けながらそっと足を通す。
その時間がやけにドキドキしてしまって、よろけてしまいそう。

転ばずに履けた靴はぴったり。
広海くんの家に置いてきた白くて光沢のあるリボンの靴とは違う、黒のシンプルな大人デザイン。
少しヒールが高めの靴は憧れていて、それを今こうして履き、それも斎藤さんの目の前で披露していることに高揚感が増す。

「素敵な靴……。あっ、おいくらですか? 払います」
「男が贈り物したのに、お金を払うなんておかしいだろ」
「えっ、あ、でも」
「茉莉に似合うと思ったけど、やっぱり似合う」

僅かに微笑んだ顔に見惚れ、結局そのまま受け取ってしまった。

会計も斎藤さんが済ませ、車へ向かう。彼の背中を追いながら首を傾げる。

なんか、違う。斎藤さんがちょっと近くに感じるような……。

そうして気づいたのは、靴のせいだということ。
ヒールの分、顔が近くになって、距離が縮まったからこんなふうに感じたのだと納得して顔を薄らと赤らめた。