嘘と正義と、純愛と。

「こちらです」

11階に着いて事務所の前に着くと、私はキィとドアを開ける。
一番奥の窓を背負った席にいる店長と目が合うと、「お客様です」と告げて、私は斎藤さんにニコリと笑顔を向けた。

「どうもありがとう」

パタンと扉を閉めて、今来た道を戻る。
エレベーターはまだそこにとどまっていて、今度は待つことをせずに乗り込めた。

1階ボタンを押すと、エレベーターは急降下する。
ひとりきりの狭い空間で、斎藤さんを思い返していた。

ニコッと優しく目を細めて『ありがとう』って。
たったそれだけのことなのに、すごく嬉しくなって今でもちょっとドキドキしてる。

接客業だから、お客さんに同じように『ありがとう』って言われることはあるけど、それとはなんか少し違う感覚。

あれかな。受付に来るお客さんは多くは年配の方だし、それに女性客が圧倒的に多いから。
斎藤さんみたいな若い男の人に、あんなふうに微笑まれることは実際なかったのかもしれないな。

そんなことを考えている間に1階に着く。
私は東雲さんがひとりで待つ持ち場に、ヒールをならして足早に戻った。