どこへ向かっているのかわからかない私は、落ち着かない気持ちで景色を眺める。
膝の上に置いた手に視線を落とし、それからさらに目を下に向けた。

靴……広海くんちに置きっぱなしできちゃった。安物の靴だし、それはいいんだけど、これから帰るのに困るなぁ。

そんなことを考えて顔を上げ、再び窓の外を見る。

こっちの方面は私の家じゃないし……。斎藤さんはあれからひとことも発さずに急いだように運転してるし。
靴屋にだけ送り届けてくれればあとは大丈夫だけど……。

ハンドルを切る横顔を盗み見て、小さく溜息をつく。

きっと、仕事に急いで戻ってるんだよね。でも、うちの百貨店の方向とも違う。
どこに向かってるんだろう。

視線を手元に戻して軽く俯きかけた時に、車が減速した。
パッと見てみると、そこは病院だった。

「えっ」

戸惑う私をよそに、斎藤さんは車を駐車してエンジンを切る。
車外に降りてバン、とドアを閉めたかと思えば、すぐに助手席の扉が勝手に開く。

見上げると、斎藤さんがいて、目を白黒させる私に手を伸ばしてきた。

「ま、待って。だ、大丈夫ですから」
「ダメ。目の前で頭殴られてるの見たら放っておけるわけがないだろう」
「あ、だ、だったら、自分で歩け……」

そこまで言いかけて足の違和感を思い出す。

……そうだ。私、靴がなくて……。
一瞬止まってしまったその隙に、彼は私を軽々と抱きかかえる。

人が周りにいるのに、恥ずかしくて死にそう……!

周りの視線から逃れるように、斎藤さんの胸に顔を押し付けて羞恥に堪える。
なんとか受付も済んで、診察を受けた。頭部だからって斎藤さんが念を押して、かなり慎重に検査をされてる私は、看護士さんに促されるままに検査を受けていた。