不幸中の幸いで、鶴屋食堂のあたりには火事が及んでいなかった。




ツルさんの家も無事だった。





「百合ちゃん! 無事でよかった……!」




「ツルさんも………」





店から飛び出して来たツルさんが、ぎゅうっとあたしを抱きしめる。




そのあと、真っ黒になっているであろうあたしの顔を見て、「火にまきこまれたのかい?」と目を丸くした。





「うん、途中でちょっと………彰が助けてくれたから大丈夫だった」





あたしがそう言うと、ツルさんは彰に何度も頭を下げた。





「ありがとうねぇ、佐久間さん」




「いえ、そんな………百合は俺にとっては妹みたいなものだから」





また、『妹』。



少しむっとしていると、ツルさんがあたしの肩に手を置いた。





「怖かっただろ、ごめんねぇ………」




「えっ、なんでツルさんが謝るの?」




「私がお使いなんか頼んだから………」





あたしは慌てて「そんなことない!」と首を振った。




そして、はっとした。




いつの間にか、お米の入った風呂敷包みがなくなっていたのだ。