妖刀奇譚






お礼を言われたのだと認識した途端、胸の辺りがふわっと温かくなる。


にやけそうになり、思葉はわざと唇をへの字に曲げてぶっきらぼうになった。



「次はもっと、きれいに巻いてあげられるように練習するからね」


「おう、期待しているぞ」



路地に入ってきた大型トラックが通り過ぎるのを待ってから、再び自転車を漕ぎ出す。


今の会話だけで顔が火照ってしまった。


他人から感謝を述べられるのは、なかなかに破壊力がある。


でも、今まで言われなかった言葉を言ってもらえたということは、少しは近づくことができたのだろうか。


少なくとも思葉には、双方の距離が縮まったように感じる……自惚れから来る勘違いでなければいいが。


オレンジ色の街頭やチカチカ光る看板を眺めながら、今度は思葉から話しかけた。


もちろん周囲の耳に届かないよう小声である。



「ねえ、玖皎」


「なんだ」


「……初めて会った日にも話したけど、今は刀が必要ない平和な時代になっている。


誰も刀を身に着けてなんかいないし、振り回したりすることもない。


刀を持つのだって、行政に認められて登録証を交付してもらえなくちゃできないわ。


だから日本刀を持っている人はみんな、古美術品や観賞用として家に飾っている。


ちょっと言い方悪いけど、部屋を飾る置物みたいにね」