妖刀奇譚






「……なあ、思葉」


「なに?」



周囲に人がいないところで玖皎が思葉に話しかけた。


それでもやはり人目は気になるので思葉は小声で返す。


やや間を挟んでから玖皎は声を発した。



「……おまえが巻いてくれた、柄糸のことなんだが」


「あっ、やっぱり気に入らなかった?


ごめんね、下手なのに無理なことに挑戦しちゃって。


青江さんに予備の柄を作ってもらったから、帰ったら取り替えて」


「そうじゃない」



玖皎は思葉を遮ると、また数拍間を挟んだ。


それからぼそぼそ喋り出す。



「おれは今までに色んな人間の手に渡ってきた。


まあ野武士や武家のところに居たときが多かったが、このようなことをしてくれた奴は一人もいなかった。


刀装具が壊れたり傷んだりすればその道の者に頼んでいたし、手入れを他人に押し付ける者だっていた。


おまえのように自分の出来る範囲で直そうとしてくれる奴はいなかった……だから、ありがとな」



思葉はブレーキを握り締めた。


表通りに差し掛かる路地の、停止線の手前だった。


玖皎に礼を言われたのは初めてだ。