妖刀奇譚






明らかに戸惑った表情になった久保田に思葉は慌てて言った。


おかしな勘違いはさせたくない。



「だ、大丈夫、分かってるから」



対する久保田も焦った様子で返す。


分かってるから、という言葉に若干引っかかりつつも、思葉はさらに人目のつかない校舎の隅へ移動した。


二階の奥、行き止まりになっている生物室の前まで来て立ち止まる。



「話ってなに?」



やや棘のある声で久保田が尋ねた。


突然話があると言われ、用件も告げられずに購買スペースからけっこう距離のあるここまで歩かされたのだから、少々苛つかれても仕方がない。


思葉は一呼吸おいて口を開いた。



「あのね、単刀直入に言うけど……花瓶、あれ割ったの、久保田くんなんでしょ」



ひくっと、久保田のこめかみのあたりが、彼の周りの空気が震えたのが分かった。


思葉は一歩踏み出す。



「今日、井上さんと三谷さんよりも早く来てたでしょ。そのときに」


「な、なんだよいきなり、おれが花瓶を割ったって……へ、変なこと言うんじゃねえよ」