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自転車をこぐのに集中すること20分。
大きな駅につながる大通りから横丁に入ると、そこには昭和の雰囲気が残る町並みが広がっている。
ここに来ると少し昔にタイムスリップした気分になれた。
現代の技術や美術的センスを駆使した建物が並ぶ場所よりも、土地や使われている木々に温もりを感じるのだ。
『刀剣青江屋』と墨書きされた白木の看板を掲げた、よく言えば年季の入った、悪く言えばおんぼろな建物はその奥にあった。
間口は出入り口の硝子の引き戸に少しだけ幅を足したほどしかなく、あとはひたすら奥へ奥へと続いている。
永近に連れられて初めてこの構造を見たとき、思葉は「鰻の寝床」という言葉の意味をよく理解した。
「ほう、ここがその店か」
無視され続け、途中から静かにしていた玖皎が感心したように言った。
そうだよと答え、思葉は店の脇に自転車を置いて看板を見上げた。
『骨董品店 満刀根屋』の看板も、このくらいかっこいいものにすればいいのにと来るたびに思う。
満刀根屋の看板の字は、書写の教科書に載っているような字体でおとなしいのだ。
「玖皎、お願いだからさっきみたいに変に騒がないでね。
あんたが何言っても、青江さんの前じゃ黙っているしかないんだから」
「分かっている」



