妖刀奇譚






重心が大きく後ろに倒れる。


両足が浮く。


ついているだけだった手が幹から離れる。


視界の天地がひっくり返り、木々の向こう側にある青空でいっぱいになった。


身体が宙に投げ出され、重力に逆らわず下へと落ちる。


自分が木から落ちたのだと理解したのは、着地してしばらく経ってからだった。


だが背中に走ったのは、冷たく硬い地面の感触ではない。


思葉は慌てて駆け寄った玖皎に受け止められた。


片腕で背中から脇の下に腕を回されて支えられ、もう一方の腕でひかがみの辺りを抱えられている。


横抱き、いわゆるお姫さま抱っこの状態だ。


そのことに気づいたのも、少し後のことである。


玖皎が大きなため息をつき、ジト目で思葉を見てきた。



「っと、危なかった……。


だから止めておけと言っただろう、人間の身体は簡単に傷つくんだ。


こちらを冷や冷やさせるな、肝をつぶされかけたぞ」


「ご、ごめん……」


「……なんだ、あんなに高いところから落ちたというのに、案外平気そうだな」



思葉を立たせてから、玖皎はまじまじと彼女を見た。


言われてみれば確かに、驚きはしたけれど、不思議と怖くは感じなかった。