妖刀奇譚






轉伏はもう一度首を竦めると、まだ話せない状態でいる珒砂の首根っこを掴んだ。


暴れる同僚を意にも介さず思葉に顔を向ける。



「じゃあ、ぼくたちは帰るね。


君たちのことはいつでも見ているから、何か大変なことが起きたら呼んでね。


すぐ行けるかどうかは分からないけどさ。


ああそれと、君、その力を使い続けるなら、もう少し強力な護身を勉強した方がいいよ。


君のおじいちゃんなら教えてくれるでしょ……まあ、今日は帰ったらとんでもなく驚かされて、教わる君の方に余裕がないかもしれないかな」


「えっ、なにそれ」


「そんな怖い顔しなくても平気だよ、むしろいい驚きだから安心して」



そんなことを言われても、驚かされることに不安を感じずにはいられない。


ちなみに思葉は家に帰ったとき、玖皎と談笑をしながら店の片づけをする永近を見て度胆をぬかされるのだが、今の彼女には知る由もなかった。


轉伏は珒砂の襟をぞんざいに離し、思葉の前に立つ。


そして両手を出すと、困惑の表情を浮かべている思葉の髪を思い切りくしゃくしゃにした。



「うわっ」


「色々言ったけど、複雑に考えなくて大丈夫だよ。


君は君のできることを、君が正しいと思うことを精いっぱいやればいいだけだからさ。


きっとそれが答えになる。


あの難しい妖刀のこと、お願いね」



髪を乱す手の感触が消える。


顔を上げると、もうそこに阿毘たちの姿はなかった。


ピアノの上に、金曜日の夜に落としたままにしていたキャスケットがちょこんと載っている。


彼らが預かっていたようだ。