「ついでにおまえも護ってやるよ、老人は無理せずに身体を労われ。
店と蔵にかけてある結界、毎日維持するのが厳しいと思っているんじゃないのか」
「力は弱くなったと言ったが、まだそこまで落ちていないぞ」
言い返した永近が唇の端を持ち上げる。
すると、優しげな面輪はべりべりと剥がれ、一筋縄ではいかせない老獪な商人の表情が見えた。
彼もなかなか食えない性分をしている。
階下で柱時計の音が鳴る。
永近はどっこいしょと言いながら立ち上がり、テーブルをもとの位置に戻した。
眼鏡をかけ直し、玖皎を振り返る。
「おまえさん、自由に動き回ることはできるのか?」
玖皎は腕を組み、右手で太刀を指差した。
「こいつを持ちながらだったらな。
ここへ置きっぱなしにしていたら、この部屋の戸を開くまでの範囲しか動けん」
「なら差してついておいで、お客に観られなければよい。
せっかくこうして人の身を得たのだ、人の真似事なぞしてみて楽しんではどうだ?」
廊下に出たところで、永近は玖皎を振り返る。
双眸にまた、いたずら小僧のような光が宿っていた。



