「はいはい、落ち着いてね」
轉伏に背後から首を絞められたので、抜くことはできなかった。
「悍染」
玖皎は背を向けてこの場から離れようとする悍染を呼び止めた。
悍染は向き直らずに答える。
「なんだ」
「おまえたちがあの櫛の付喪神を野放しにしていたのは、おれと思葉が居たからなのか?
……この結果、どこまでがおまえの目論んだことだ?」
「さあ、どうだろうな」
含み笑いの音声で、悍染は一言それだけ口にする。
その一言から、少なくとも彼の思惑が絡んでいたということは悟れた。
(相変わらずうまいな)
利用されたのは悔しいが、玖皎は口元を吊り上げる。
すると、いきなり悍染が指を鳴らした。
「……ああ、そうだ、あの付喪神をうまく成仏させてくれた礼に、一つ教えておいてやろう」
「は?」
「人間というのは自分の思い込みで動くもの、その言葉を鵜呑みにして信じるのはやめておいた方がいい」
「どういう意味だ、もったいぶらずに言え」
「そう急かすな、おまえはすぐに結論を知りたがる。
それではいざというときに余裕を失うぞ」
「悍染さん、でもちょっと意地悪すぎますよ~」
轉伏が肩をすくめる。
ちなみに珒砂は彼の足もとで静かになっていた。
「そうか?まあ、時間もないから引っ張るのはここまでにしておくか」
再び自分の方へ向く鬼神を睨みながら、玖皎はふと阿毘たちの結界に誰かが近寄ってくるのを感じた。
聞きなれた老人の足音だ。
悍染は案摩の面をつまむと少しずらし、金色の瞳を細めて玖皎を射抜いた。



