「珒砂(しんしゃ)、この刀が気に入らないのは分かるけど落ち着きなよ」
「うるせえ、轉伏(うつふし)だって同じこと思ってんだろうが」
「だから落ち着きなって、ここで刀を抜いたら悍染さんに身体半分消しとばされるよ。
それに、そうやって喚くから甘くみられるんだと思うけど?」
「ぐっ……」
珒砂と呼ばれた阿毘が悔しそうに柄から手を外す。
玖皎は彼らの言い合いには耳を向けず、じっと轉伏の隣に目を向けている。
「そこに居るのだろう、悍染。
もったいぶらずに出てこい、焦らされるのはあまり好きではないぞ」
すると、轉伏の隣にゆっくりと質量が生まれた。
徐々に人の形を成していく。
それは案摩のような面をつけた背の高い男だった。
こちらは2人と異なり帯刀していない。
「久しいな、霧雨玖皎」
「おや、本当に出てくるとはな。
阿毘の大将がそう簡単に此岸へ来ていいのか?」
皮肉が混ざる玖皎の口調に再び珒砂が無言で柄に手をかけ、轉伏がその肩を掴んでやめさせた。
言われた悍染は特に気にする様子もなく小さく笑う。
「おれはこいつらの上司なだけで大将ではないぞ。
それに、今の俺は鬼神であって阿毘ではない、おまえが千年も此岸を彷徨っている間に位が変わったのだ」



