「暗くて見落としてた道からさ、真っ黒な犬が飛び出してきたんだよ」
「いっ、犬!?人じゃなくて?」
「ばか、人だったら面白いじゃ済まねえだろうが」
來世が思い切り顔をしかめる。
言われてみれば確かに、と思葉は納得したが、胸の中で首をひねった。
(あれ?でも、なんで來世は犬って思ったんだろう……
いくら暗くてあたしが小さいからって、犬と人を見間違えるはずがないのに)
「でさ、やべえ轢く!って思って急ブレーキをかけたんだけどよ……
気が付いたらおれ、電柱に寄りかかって寝ていた」
「は?」
思葉はわざと驚いた相槌をうつ。
その話なら理解できる。
気絶した來世を電柱に寄りかからせたのは思葉だからだ。
「でもどこにもけがしてねえし、何かにぶつかった覚えもねえし、倒れてたチャリには犬を轢いたような跡がなかったんだよ。
な、な、面白くねえか、すっげえ不思議だろ?」
「全っ然面白くない」
むしろいきなり図星をつかれて心臓に悪かった。
思葉はため息をついて校門を目指す。
隣に並ぶ來世があれこれ推察していたが、耳には入らなかった。
(なんで、犬なの?
來世は人とぶつかりそうになったって思っているはずなのに。
なんだろう、まるで記憶が書き換えられているような……)



