「お、おい……」
戸惑った玖皎の声と足音が近づいてくる。
玖皎は思葉の前に膝をつき、行き場の見つからない手を彷徨わせた。
「なんでおまえが泣いてるんだよ」
「し、知らないわよ。
あんたが、泣かないからでしょ」
「なんだそれは」
何故泣いているのか思葉自身もよく分からなかった。
けれども、涙はまったく止まらない。
嗚咽も激しくなり、走った直後のように脇腹が痛くなる。
玖皎は黙って泣きじゃくる思葉を見つめていたが、彷徨わせていた手を彼女の頭へ伸ばした。
そして2、3度思葉の髪を撫でてから、そっと自分の胸元に引き寄せた。
もう一方の腕は、思葉の小さく薄い背中に回す。
細いが力強い腕の中で、思葉は玖皎の温もりを感じた。
妖怪だからか鼓動は聴こえないけれど、玖皎には生き物と同じように体温があるようだ。
それに包まれていると心が落ち着き、泣き止むことができた。
思葉は頭を起こし、軽く洟をすすった。
「思葉」
落ち着いたのを見届けて、ふいに玖皎が居住まいを正した。
思葉も自然と背筋が伸びる。



