暗闇に向かって訴える。
そのとき、ふわりと風が吹き抜けた。
寒さが和らいだ春のような夜風が、窓を閉めたはずの室内を通る。
それに乗って白い何かが舞う。
雪かと思ったが、それは桜の花弁だった。
(えっ?)
びっくりした思葉は目を開けてさらに驚く。
青白く大きな月を背に、一本の桜の樹が立っていた。
太く立派な枝に何十輪、何百輪も咲き誇る桜花が、風に揺らいで散っていく。
雨のように降り注ぐ花弁の下に誰かが居た。
萌黄色の表衣に赤い唐衣。
こめかみあたりの髪に結わえられた二つの鈴。
「琴、さん?」
「……姫」
いつの間にか、すぐ隣に玖皎が立っていた。
両腕をだらりと垂れ、信じがたいものを目にした顔つきで琴を凝視している。
琴が目を細めて微笑み、唇を動かして言葉を紡ぐ。
その声は思葉には聴こえなかったが、玖皎の耳には届いたようだ。
「姫っ!」
玖皎が琴のもとへ駆け寄る。
琴が笑みをさらに広げて玖皎を見返した。



