思葉は幽霊を観ることはできない。
だが、目の前にいる彼女は、生きた人間でなければ残留思念でもない。
「こうして相対するのは初めてだな。
わらわは琴じゃ、死ぬ前に寿々咲という名にはなったが、あれは好かんから琴と呼べ。
改めてよろしくな、思葉よ」
「どうして、あたしの名前を?
というか、何であたしが玖皎の声が聴こえると知ってるの……ですか?」
「おお、やはり声も届くか、こうして再び生者と言葉を交わせるとは思いもしなかった。
ああ、無理に敬語を使わずともよい、砕けた物言いの方がわらわは好きじゃ。
……愚問だな。
知っておるのは当たり前だ、わらわはずうっと、そなたたちのことを見ておったからな」
「は?」
あまりにもあっさりと言われ、思葉は目が点になった。
琴は楽しそうにくすくす笑う。
「すまぬな、順を追って話そう。
……わらわの記憶、わらわの最期は観たな?」
「はい」
「わらわはあの山寺で死んだ。
本来ならば彼岸へ渡り、閻魔王の元へ裁きを受けるのだが、わらわは渡らなかった。
地獄からの使いに頼んで、此岸に残ることを選んだのだよ」



