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――暗い。
どこまでも暗い。
気が付くと、思葉は耳に突き刺さるような静寂の中に放り出されていた。
思葉は深呼吸を繰り返した。
今しがた観た、琴の最期が網膜に焼き付いて離れない。
思い出すだけで胸の奥に爪が立てられる。
もう一度深い呼吸をして、思葉は両手を胸に当てて目を閉じた。
視界はやはり暗いまま変わらない。
目を開けているのか閉じているのか分からなくなりそうである。
呼吸を整えた思葉は、闇に向かって尋ねてみた。
(琴さん?今、あたしに記憶を見せてくれたのは、琴さんなの?
そこに居るんでしょう?
もし、あたしの声が聴こえているなら、こっちへ来て)
人の気配がする。
目を開けると、闇の中に女の姿が浮かび上がった。
たくさんの着物を重ねた十二単、二陪織物(ふたべおりもの)の華やかな萌黄色の表衣と、禁色の赤い唐衣が目を引く。
足元には奇麗に裳が広がり、長い髪は束ねずそのまま流してある。
右のこめかみを隠している髪に赤い紐が結わえられ、その両端に鈍色の鈴がつけてあった。
化粧をしていない、若々しい顔が思葉を見ていた。
整っているが、思葉よりも幼いようにも、大人びているようにもとれる顔立ちだ。
「琴、さん……?」
「ほう、そなた、わらわの姿が観えるのか。
さすがは玖皎の声が聴こえる女子じゃ」
琴が目もとを細めて満足そうに笑う。
少し曖昧な表情になって、思葉は戸惑った。



